斎藤貴男『報道されない重大事』*1の308-310p
魚住昭
この法案〔個人情報保護法〕は言論封殺法だって言ってた頃、だから二〇〇一年の五月か六月かな、ちらっと思ったのは、どうしてこの法案は雑誌狙いなのか、フリーライター狙いなのかということ。その理由付けとして、僕もしたし、他の人もしたんだけど、新聞で書かないような政治家のスキャンダル報道を、雑誌が担ってきた。古くは『文藝春秋』の田中角栄研究からね。やっぱり政府にとって、雑誌は怖いんだ、フリーライターは怖いんだという位置づけをしたけど、これはちょっと……って思っていたの。そんな大した仕事をしているかなと。つまり、雑誌規制、フリーライター取り締まりが主目的だとしたら、わざわざ官僚たちが、法案までつくって大がかりな仕掛けをするのかなって疑問はありました。
そこへ、元自治大臣の白川勝彦さんが個人情報保護法反対の集会にやってきて、その後の飲み会の席で、言ったんですね。「これはあなたたち〔記者〕を規制しようなんていう法案じゃない」と。さらに、「この法案〔個人情報保護法〕の狙いは全国のパソコンですよ。そのデータをいつでも警察が自由に持っていけるというね」。なるほどそうかと合点がいきましたね。そうでないとおかしいと思ったのよ。もちろん、雑誌、フリーライター規制は従の目的ではあったのだけど。
斎藤貴男
でも、メインの目的ではなかった。
魚住昭
そうなんだよね。この法案の目的って、ある種の治外法権的な性格のあるインターネット空間の官僚制覇だよね。極端に言ってしまえば。あるいは、ネットを大きな武器に活動しているNPO、NGOに対する統制ですよ。イラク反戦のデモや集会参加の呼びかけにインターネットが果たした役割は大きいですからね。政府としては恐ろしいのではないですか。そこへ、フリーライターや雑誌に対する政治家の嫌悪感が紛れ込んできて、きっとあんな形の法案になったんですよ。法案の原作者は、あくまでも官僚なんですね。そういう感じでとらえてみると、はじめてこの法案の全体像がわかったという感じがしました。
同書314-315p
斎藤貴男 〔略〕現在、有事法制の必要性が叫ばれるのは、海外に進出した日本企業の権益を守ることが理由としてはむしろ大きいと思いますね。
魚住昭 企業の用心棒役をやってくれと。
斎藤貴男 経済界でよく言われるのは、IJPCの教訓を忘れるな、ということ。IJPCイランと三井物産、日本石油が合弁で推進した石油化学プラントなんですが、これは、パーレビ国王時代の事業です。七〇年代の末、八割くらい完成したところで、ホメイニ革命が起きました。イランの石油の歴史をたどると、政権が変われば、こうした前政権の施設は、新しい権力に接収されてたんですよ。日本側はそれを非常に恐れたんだけれども、うまくやって合弁を続けることができた。ところが、イラン・イラク戦争が始まって、九分九厘完成していたプラントが全部破壊されちゃった。ここから、三井グループの凋落がはじまるわけですが。
魚住昭 日本企業、とくに製造業は、中東に限らず、東南アジア諸国にもどんどん進出してますよね。なぜなら人件費が安いし、環境基準なんかも厳しくないから、本国では使えなくなった設備を稼動させることもできるからだよね。しかし、こういう国は政情が不安定で、大規模な政変も起こりやすく、そうなったら先が読みにくくなる。つまり、カントリー・リスクが高いってことになる。
斎藤貴男 〔略〕だから自国の企業進出先の国でクーデターが起こりそうになったら、アメリカは空母を派遣して脅しをかけるわけですよね。〔略〕
魚住昭 それと同じことを日本もやりたいと。
同書320p
魚住昭 財界人は、自衛隊さん守ってくださいって頼んでますね。
斎藤貴男 経済同友会の牛尾治朗氏は、第七艦隊があるアメリカがうらやましいという主旨の発言をしています。〔略〕恐ろしいのは、ますます国内産業が空洞化して、雇用がなくなるでしょ、すると、徴兵制が始まる。
魚住昭 不況対策で。
斎藤貴男 雇用先としての軍隊。そうやって軍隊に入った人間こそいい面の皮で、日本企業が海外に進出したおかげで仕事にあぶれた人間が徴用されて、自分を雇ってくれなかった当の企業を守るために、命を差し出すわけだから。
以上、引用終わり
魚住昭の本は、面白いですよ☆
あと、ダグラスラミスの本もオススメです☆