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写真は杉本博司の屋外展示 ベネッセハウス 地中美術館からベネッセハウスへ向かうと、ちょっとがっかりする。 完璧にコーディネイトされ、デザインされた空間から、そうではない空間への移動。 ベネッセハウスは、基本的に安藤の設計による『ホテル』だ。 だから、そこでは現実の経済的合理性や使い易さやメンテナンスのし易さなどの現実的な要素が、建築の主要な要素になる。 だから、目に入る、あるいは手に触れる、あるいは歩く床などのテクスチャーは、地中美術館とは決定的に違う。 それはデザイナーがデザインしたシグネチャーブランドと、デザイナーがディレクションした一般向けのカジュアルブランドの違いみたいに決定的な差だ。 パーツや素材や空間構成やディテールが全然違うのだ。 ホールを歩く時の音も、もっとひずんでいて美しく無い。 床は体育館の床のようだ。 ホテルの内部を美術館、それも現代美術館にするという発想は素晴らしい。 しかし、それがうまくいっているかどうか?は、また別問題だ。 おそらく、このベネッセハウスは、発想や思想と実態がうまくかみ合っていない。 つまり、デザインがうまくいっていない。 そして、その反省のもとに産まれたのが『地中美術館』なのだと思う。 たとえば杉本博司を自然光で見る。 発想としてはナチュラルのような気がする。 しかし、強烈な直射日光の下で見るモノクロームの杉本の写真は、意味不明というか本末転倒である。 もしかすると、曇りや雨の日に見たら素晴らしいのかもしれないけれど。。 リチャードロングもこじんまりとまとめられてしまい、ちょっと可哀想な感じだった。 名前は忘れたが、直接見ると稚拙なただの海岸の絵が、直射日光をうけた庭の外からガラス越しに見ると、ガラスに移り込んだ海岸の風景と渾然一体となっていて、それはスゴいと思う。偶然かもしれないけれど。。 おそらく、ベネッセハウスのイメージ元は、デンマークのコペンハーゲン郊外のLouisiana美術館あたりにあるのかもしれない。 なんだかちょっと似ている。 ただ、あそこのデザインは素晴らしい。 海と美術館と作品、完璧な調和をみせていると思う。 屋外に出る。 屋外の作品を眺める。 まあ、大体、屋外の作品で大した作品に出会ったためしはないのだが(笑) (もしも、とんでもなく大した作品作ったら、絶対盗まれてしまうから屋外になんか置かないんじゃないか?、ふつう 笑) とか言いながら、期待しちゃうんだから、人間って馬鹿ですねー(笑) とはいえ、こうやって歩きながら、ひとつひとつ作品を発見していく行為は純粋に面白い。 青白い顔をした美術関係者とおぼしき外国人の二人組も、炎天下の下、必死に歩いている(笑) どうしても運動不足で日光の足りなくなりがちなインドア芸術おたくにとって、こういった試みは重要なのかもしれないと思う。 吉祥寺でも何かやれるかなー?? シーサイドのキャンプ村も、パオが壊され、現在新しいホテルの建設が行われている。 道路わきに植えられたヤシの木?も、リゾート感を盛り上げるために植えられたのだろうが、地中美術館みたいなスゴい作品を作ってしまうと、思いっきりダサダサに見えてしまう。 どちらかというと、中国っぽい雰囲気の瀬戸内海の島に、南国リゾートの気分は全く合わないのだ。 どう考えても、松植えた方がかっこいいだろう。 同じことは、地中美術館のモネの庭についても言える。 今の所、モネの庭がうまくいっているとは言いがたい。 それはなぜか? モネの庭のあるジヴェルニーと直島の環境が決定的に違うからだ。 モネはフランスに日本風の庭園を作り、そこで絵を描き続けた。 今度は、日本にモネ風の庭を造ろうとする。 しかし、モネの庭はフランスのあの土地だから出来たのであって、同じことが瀬戸内海の海岸線の砂地で出来るとは考え辛い。 土の質が全く違うはずだ。 だいたい、美観的にも周囲の松とまったく似合っていない。 しかし、植物は土壌や植生を変える。 それが庭園デザインのスゴいところである。 もしかすると成功する可能性もあるのだろう。 この先どうなるのか?見守っていきたいと思う。 バスで家プロジェクトのある本村地区へ移動する。 家プロジェクトのチケットは、バス停の前のたばこ屋で買える。 三館共通で500円也 チケットの裏に地図が付いており、それをたよりに歩く。 最初に見たのは宮島達男の『角屋』 『角屋』は、入り口も地味だし、見た目も地味。 地図がないと全然分らないかもしれない。 でも、なんだかとても良い。 古い民家の中に作られた池(水槽?)の中にゆらゆらうごめく宮島達男の数字は、なんだか金魚すくいみたいで味わい深い。(笑) 今までに見た宮島達男の中で、一番この作品が自分にはしっくりきた。 なぜ古い民家と現代美術の相性がこのように良いのだろうか?ということを考えると、余計な装飾のないシンプルな構成と、統一した素材感。 ようするに木と紙で出来た家は、作品をうまく活かすのだ、ということに気付いた。 ベネッセハウスのように、全面ガラスでオープンだと、直射日光にやられてしまったりする。 自然がそのままのカタチで容赦なく作品にふりかかってしまうのだ。 ところが、『角屋』のように”しょうじ”や”ふすま”によって仕切られた空間は、太陽の光を間接的に取り入れながら、作品に味わいを与えるのだった。 家そのものが、空間と光の芸術の作品になるべく作られているとさえ言える。 あらためて日本建築はよく出来ていると実感したのだった。 家プロジェクト周辺の町並みが実に良い。 理にかなった美しい建築だ。 おまけに、それは生活に根ざしている。 思えば、世界の様々な場所を旅してきたけれど、もっとも印象に残っている建築は、常に、生活に密着した旧市街の、無名な建築家によって建てられたふつうの家々だった。 それらは、土地が持つ光や風や湿度や温度や、植物の生育条件やら、ものを運ぶ交通条件やら、職人のうでやら、様々な条件の元で、その場所とその地域の生活にとって最も相応しいものが生き残ってきたものである。 だから、それらは日常でありながら、理にかなっていて、とても美しいのだ。 たとえば、南イタリアのチステルニーノ やアルベロベッロ、あるいはアンダルシア等の白い町並みがいくら美しいからといって、それをそのまま日本に持ち込んでも意味不明だ。 乾燥した気候と強い日射しを考慮に入れたそれらの町並みを日本で作ったら、湿気でたちまち黴だらけになってしまうだろう。 土地に生息する木やその他の素材以上に、その土地にとって素晴らしい素材など、ほとんど存在しないのではないだろうか? ところが、現在では、日本中にサンタフェ風だのコロニアル風だのスペイン風だの、なんとか風の家や町並みが、あきれるほど建っている。 意味が分らない。 サンタフェの建築が美しいのは、そこが砂漠で湿気が少なく日射しが強く、砂が光の屈折率を変えるから、あのような色合いと素材感の家が土地にマッチするのだ。 そんなものを日本に持ってきてどうする? しかも、多くの場合、その本物の素材ですらなく、それ風の色や素材になっていたりするだけだったりするのだった。 いったい何のつもりなんだ?? 毎日、自転車で職場に通う時に、最近できた大型マンションの前に、リゾート風のタイルが敷かれた歩道が出来て、毎日そこを通る。 まぶしくって、目が開けられないんだよ。。 歩道に変なタイル敷くなよ。 本当に、困る。 消えかかった伝統的な町並みに、現代美術を持ってくる。 伝統と現代。 一見、相反する気がするけれども、むしろ、たいがいの場合、それはとても相性が良いようだ。 僕が、その事実を初めて実感したのは、南フランスのニームにあるCarred Art'sと、2000年近く前の遺跡の対比を見た時だった。 ローマ時代の遺跡と現代のガラス建築が隣合う姿は、おそろしくカッコ良かった。 ただの懐古趣味や伝統崇拝や保守主義による復古趣味ではなく、伝統的な建築や町並みには、ある種の必然性が存在すると思う。 もちろん、文化や文明は、ある時から制度や習慣になってしまい、本来の『そうなった必然性、蓋然性』といったものを失ってしまうということが往々にして起きる。 そして、技術や文化はしばしば失われてしまう。 残っているのは残りかすのような象徴や様式(スタイル)であるということは、日常茶飯だ。 しかし、現代美術や現代建築をそれらの伝統的建築や町並みに対比することによって、その制度や慣習を打ち破り、ものごとの『本質』を明らかにすることが可能のような気がしている。 現代美術が、そういった制度や慣習に風穴を開ける。 その場所が本来もっている、通常では知覚できないものを気付かせる。 そういった役割が、21世紀の美術やデザインにとって、必要不可欠なものであるような気がしている。 そして、直島の家プロジェクトは、その一歩をとてもうまく踏み出していると思う。 ______________________________________ いよいよ『南寺』 カフェまるやでカレーを食して栄養補給、極楽寺に寄って妖気を補充(笑)し、いよいよ『南寺』へ この芸術作品は、おそらく人によって全く感じ方が違うと思う。 ただ、僕にとっては、正直言って、”今まで見た芸術の中で最も衝撃を受けた芸術だった”と言っておこう。 まず何と言っても、自他との境の全く区別のつかない、目を閉じているのか開けているのか?すら区別のつかない暗闇に長時間居るという経験が全くなかった。 それは、全く根源的な体験であったのだ。 村上春樹の『ダンスダンスダンス』に出てくるドルフィンホテルの中の”根源的な闇”の場面みたいに、その闇は根源的であった。 普段暮らしていると、『全くの暗闇』という体験をすることがない。 大抵の所は、どこかしら明るいからだ。 目を閉じていたとしても、私達はどこかしら明るさを知覚している。 以前、山の中で全くの暗闇になった経験があったけれど、それとて懐中電灯を持っていたから、見ることが可能だった。 『差異がある』ということが、ものごとを知覚する際の前提条件なのだと思う。 『光があるから闇を知覚でき、闇があるから光を知覚できる』 自分の触感以外をいっさい信用出来ない暗闇において、私達は何を頼りにするだろうか? それは『音』である。 音によって、私達は空間を把握しようとする。 イルカやクジラが行っているエコーロケーションという手法は、ここから来ていることにあらためて気付かされた。 視界のきかない海の中で空間や餌や仲間を探そうとするとき、イルカ達は音(声)によって空間を把握しようとするのである。 こうもりが超音波を発するのも、同じ理由からであろう。 『音は視覚の代わりになり得る』 しかし、このことに気付きながら、僕はいっさいの音をたてないことに決めた。 音を出さないところが、南寺の観照のための重要なポイントだということに気付いたからだ。 『暗闇』それは、自己の内部と自己の外部との間の葛藤である。 そこには、視覚的ないっさいの境目も存在しないのだ。 『見る』という行為が全く意味をなさない世界、それが『暗闇』なのだ。 自分がしている行為が、全くの無意味な世界。 『私』と『私以外』の区別が全くない世界、それが『暗闇』である。 音の無い暗闇の中で自分の存在、確固たるものの存在を支えているのは唯一触感だけだ。 その触感さえ無くした時、自分の意識はどうなるのだろうか? 私達は暗闇の中から産まれてきたはずだ。 私達は暗闇の記憶を持っているはずなのだ。 『暗闇=記憶』 さて、しかしながら、どういうわけか、『それ』は見えてくるのだ。 ぼんやりと、しかし確実に。。 『私』はたしかに変化している。 見えなかったはずのものが見えてくる。 もはや、視覚は視覚として機能している。 そして、その視覚は『あらゆる感覚を伴った視覚』である。 私は『それ』を体験する。 『それ』は生であり死である。 あちら側でありながら、こちら側である。 南寺を楽しむためのポイント 一、できるだけ晴れた日射しの強い日を選び、外の野外彫刻などを廻った後に見るべし。 二、できるだけ空いている時に入館し、一人きりで見るべし。 三、音はたてないこと。 四、動けるようになったら、『そこ』までいって体験すべし。 五、もっと動けるようになったら、中央から『それ』に近づいていくべし。 直島 家プロジェクト そして南寺へ 直島+地中美術館+ジェームズタレル+安藤忠雄
by ccplus
| 2009-01-07 20:16
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